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名古屋高等裁判所 昭和40年(う)195号 判決 1965年11月30日

被告人 前田一夫

主文

原判決を全部破棄する。

被告人を原判示第一の罪につき、懲役三月及び罰金百二十万円に処する。

被告人を原判示第二及び第三の罪につき、懲役六月及び原判示第二の罪につき罰金百万円、同第三の罪につき罰金百三十万円に処する。

右の各罰金を完納することができないときは、金五千円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

本裁判確定の日から三年間、右各懲役刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用を二分し、その一を原判示第一の罪につき、他を原判示第二及び第三の罪につき、それぞれ被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人平岩忠次郎作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用するが、その要旨は、原判決の科刑が重きに失し、不当である、というのである。

所論に対する判断を示すに先だち、職権を以て、原判決における法令適用の当否を検討するに、原判決は原判示事実に対する法令の適用として、「判示第一の所為につき刑法第四五条後段、第五〇条、昭和三七年法律第四号による改正前の所得税法(以下旧所得税法と略称する)第六九条第一項、第二六条(併科刑選択)、判示第二、第三の各所為につき旧所得税法第六九条第一項、第二六条、第七三条(併科選択)――(右判示第三の所為に対する適条にいささか誤りがあることは、後記当裁判所の掲げる適条により、明らかであるが、それが破棄の理由となるほどのものでないから、ここでは問題としない)――判示第二、第三の懲役刑の併合罪加重につき刑法第四五条前段、第四七条本文、第一〇条(重い判示第三の罪の刑に法定の加重)、罰金刑の換刑処分につき刑法第一八条、刑の執行猶予につき同法第二五条第一項第一号、訴訟費用につき刑事訴訟法第一八一条第一項本文」を掲げ、主文において、「被告人を判示第一の罪につき懲役三月及び罰金一五〇万円に、判示第二及び第三の各罪につき懲役六月及び各罰金一五〇万円に処する。被告人において右罰金を完納できないときは金二、五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。但しこの裁判確定の日より三年間右各懲役刑の執行を猶予する。訴訟費用は被告人の負担とする」旨宣していることは、原判決書により、明らかである。而して刑法第一八条第三項によれば、罰金を併科した場合においても、その労役場留置期間は、三年を超えることができない旨明定されているところ、右法条にいわゆる罰金刑の併科というのは、同法第四八条第二項の適用により、一個の罰金刑を科す場合のことではなく、併合罪でありながら、同法第四八条第二項の適用がないため、数個の罰金を科す場合及び確定裁判の介在により、併合罪関係がないため、各罪別に数個の罰金を科す場合を指称するものと解すべきである。尤も数個の罰金であつても、これを各別の裁判で科す場合には、右にいわゆる併科に直接当らない。然るに原判決における罰金の科刑は、併合罪関係にある原判示第二及び第三の罪につき各罰金一五〇万円であるから、その併科額は合計三〇〇万円であり、その労役場留置期間は、金二、五〇〇円を一日の割合により換算した合計一、二〇〇日であるから、明らかに刑法第一八条第三項に牴触するばかりでなく、右の原判示第二及び第三の罪と併合罪関係にない原判示第一の罪につき科せられた罰金額は、一五〇万円であるから、これと右の原判示第二及び第三の罪につき科せられた各罰金額との併科額は、合計四五〇万円であり、その労役場留置期間は、原判決摘示の金二、五〇〇円を一日の割合により換算すれば、合計一、八〇〇日となるから、これが刑法第一八条第三項に違背することは、一層明瞭である。しかも原審における訴訟費用は、国選弁護人に支給した日当及び報酬であり、それが原判示第一の罪と原判示第二及び第三の罪に関し生じたものであり、原判示第一の罪と原判示第二及び第三の罪とにつき、それぞれ各別に主刑を言い渡さなければならない本件である以上、右訴訟費用についても、当該関係部分につき、それぞれ分離して負担を命ずべきであつたのに拘らず、原判決はこれが負担を命ずるに当り、そのいずれの罪につきそれぞれ幾許の金額を負担させるかを明示しなかつたのも、違法といわなければならない。然らば原判決は、以上の点において、それぞれ判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りを冒したものであり、全部破棄を免れない。本件控訴は、結局において理由がある。

よつて弁護人の量刑不当の論旨に対する判断を省略して、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八〇条に則り、原判決の全部を破棄したうえ、同法第四〇〇条但書に従い、当裁判所において、更に判決をする。

原審が適法に確定した原判示罪となるべき事実を法律に照らすに、右事実における第一及び第二の各逋脱行為は、いずれも昭和四〇年三月三一日法律第三三号所得税法附則第三五条及び昭和三七年四月二日法律第六七号国税通則法の施行等に伴う関係法令の整備等に関する法律附則第一八条により、これ等法律による改正直前の所得税法第六九条第一項、第二六条第三項第三号に、右事実における第三の逋脱行為は、右昭和四〇年法律第三三号所得税法附則第三五条により、同法律による改正直前の所得税法第六九条第一項、第二六条第三項第三号に、各該当するところ、被告人には原判示確定裁判を経た道路交通法違反罪の前科があるから、この罪と右の原判示第一の罪とは、刑法第四五条後段の併合罪の関係があるから、同法第五〇条により、未だ裁判を経ない右の原判示第一の罪につき処断することとし、所定刑中懲役刑と罰金刑との併科刑を選択し、その刑期及び金額範囲内において量刑すべく、右の原判示第二及び第三の罪は、同法第四五条前段の併合罪の関係にあるから、各その所定刑中、懲役刑と罰金刑との併科刑を選択し、懲役刑については、同法第四七条本文、第一〇条に従い、犯情により重いと認める原判示第三の罪の刑に法定の加重をなし、罰金刑については、昭和三七年三月三一日法律第四四号所得税法の一部を改正する法律附則第一五条により、同法律による改正直前の所得税法第七三条が原判示第二の罪に適用されるから、刑法第四八条第二項を適用しない結果、同罪と原判示第三の罪とを各別に処断することとし、結局右の原判示第二及び第三の罪については、懲役刑につき右説示の加重をなした刑期及び罰金刑につき、原判示第二及び第三の罪に対しそれぞれ各別に右金額の範囲内において、量刑すべきである。そこで情状を考察するに、記録に現われた被告人の本件犯行当時及び現在における職業、資産、負債、収入、本件犯行の動機、手段、その逋脱税額が合計金四、〇六五万円余に上り、その隠し財産が合計約七、〇〇〇万円に達すること、本件捜査及び審理に対する被告人の協力的態度、本件発覚により、被告人に対し課せられた本税、重加算税、延滞税、個人事業税、県市民税の合計額が約八、〇〇〇万円に及ぶこと、同各税に対する被告人の納付状況、その他諸般の情状に鑑み、ここに被告人を、原判示第一の罪につき、懲役三月及び罰金百二十万円に処し、原判示第二及び第三の罪については、懲役六月及び原判示第二の罪につき罰金百万円、同第三の罪につき罰金百三十万円に処し、刑法第一八条に従い、右各罰金を完納することができないときは、金五千円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。なお同法第二五条第一項を適用して、この裁判確定の日から三年間、右各懲役刑の執行を猶予し、原審における訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項本文に則り、これを二分し、その一を原判示第一の罪につき、他を原判示第二及び第三の罪につき、それぞれ被告人に負担させることとする。

以上の理由により、主文のとおり判決する。

(裁判官 上田孝造 堀端弘士 藤本忠雄)

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